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| 遠い昔、貴族たちに愛されたイギリスの田舎町 |
どこまでも続く大自然に囲まれて、とびきり贅沢なイギリスでの田舎暮らし |
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Wales

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ロンドンのヴィクトリアコーチステーションから長距離バスで約3時間半。人々で賑わうロンドンから少し離れると、目の前は風に揺れる木や草の緑色でいっぱいになる。すれ違う人々の会話に耳を傾けると、聞きなれた英語とは全く違う英語が聞こえてきた。彼らの話す言葉はウェールズ語だ。ウェールズの人たちは歌うように会話をする。何かうれしいことでもあったのかな、そんな風に感じてしまう。
イギリスで有名な歌の多くがここウェールズから来ているのも、彼らが毎日歌うように言葉を放つからなのだと、誰かが言っていた。ウェールズにある友人の親戚の家に着いたのは、午後3時をまわったところだった。あわいピンク色の壁と茶色の屋根がcuteに合わさって、小さなベンチの置かれた庭がそのかわいさを引き立てていた。おじいさんとおばあさんの2人が暮らすこじんまりとして心地の良い家。ここで3日間お世話になることにした。
「そろそろ晩御飯にしましょうか。」おばあさんがそう言って晩御飯の準備をしてくれたのはまだ3時半をまわったころ。 行きのバスの中でお昼ごはんを食べたばかりだったけど、おばあさんの作る料理があまりにおいしくて、一皿全部きれいに食べ終えた。「またリスが下りてきたよ、おばあさん。」おじいさんが困った顔をしながら窓の外を見た。鳥用の木の箱の中に入って、一生懸命鳥のエサを食べるリスの姿が目に入った。野生のリスを目の前に、私はおもわず声をあげてしまった。
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晩御飯を食べた後は、家のまわりを散歩することにした。日が暮れると寒くなるからと、おばあさんが厚手のジャケットとマフラーを用意してくれた。まだ9月だというのに、ウェールズでは冬の始まりを告げる風の匂いがした。イギリスの田舎町らしい、こじんまりとしたかわいい家がぽつん、ぽつんと緑色の中に現れる。
自分のまわりに広がる自然を目にしながら、何気なく吸い込んでいるこの空気が今までと違うことに気がつき、軽く深呼吸をしてみた。空気をこんなにおいしいと感じたのは何年振りだろう。ひんやりとした冷たい空気が一気に体の中に入ってきて、体中が洗われたような気分になった。大都会のロンドンでの生活に少し疲れを覚えていた私は、自然に感謝するという気持ちを学んだ。
私の姿を見て白い馬がゆっくりこちらへ近づいてきた。人が通ることが少ないから、私の姿を見てうれしくなったのだろうか。毛並みのそろった真っ白な体は、堂々としていてとてもたくましく思えた。向こうで待っているもう1頭のところに戻ったり、またこちらに寄って来たり、落ち着きのない態度が何だか面白くて、愛らしい。どこまでも続く田舎町を歩いて行く、ただそれだけのことなのに、私はいつのまにかこの場所に夢中になっていた。
次の日の朝、雨が屋根にぽつぽつと落ちる音で目が覚めた。今日は朝からあいにくの雨。ウェールズは雨が降ったり止んだりの天気が多い。だからウェールズの人々は歌うことを覚え、それが今でも彼らの言葉の中で受け継がれているのだという。朝は家の中でスコーンと紅茶をいただき、おばあさんの若いころの話を聞かせてもらうことにした。
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お昼をまわり、ようやく雨がおさまったので村の中心部へ連れて行ってもらった。中心部と言っても、小さなメインストリートの両側にお店が並ぶ程度。買い物を済ませればもうすることがなくなってしまう。コッツウォルズを思わせるようなアーモンド色の建物の奥に行くと、花が咲く広場に着いた。小さな池の周りで遊ぶ子供たちの真っ赤なセーターがまわりの緑色の中で引き立っていた。
今度はウェールズの南に位置する海岸へ。海岸近くのカフェでカフェオレとカスタードケーキを食べ、体力をつけた後は海岸に沿う丘の上を登って行った。左にはどこまでも続く草原、そして右手には力強く波打つ海。どこまでも続く大自然に囲まれて、これから何かが起こりそうな期待に騒ぐ気持ちを抑えて道の続く限り、ただ前へと歩いて行った。
前方では一匹の犬がうれしそうに駆け足で走り回っていた。この大自然の中では、この犬も何かが起こりそうな期待に胸をおどらせているのだろうか。夕方になると、だんだん周りが暗くなっていった。人工的な明かりの少ないイギリスの田舎町では、暗くなるのがとても早く感じる。おとぎの国に迷い込んだようなウェールズでの生活は、もう終わりに近づいていた。
明日からはまた賑やかなロンドンでの生活に戻ることだろう。「またいつでもウェールズにおいで。」おばあさんのこの言葉が心に響いた。私には、戻ってもいい場所がある。イギリスでの田舎暮らしは、私の心を想像以上に癒してくれた。海岸から家に戻る途中、1日目に出合った白い馬の姿が見えた。私は今の気持ちを忘れないように、ずっと外の景色から目を離さないようにした。
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Rye |
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「ライはイギリスで一番かわいい村。」誰かが言っていたこの言葉を自分の目で確かめたくて、ライ村まで行くことにした。ロンドンのキングスクロス駅から列車で約1時間半。駅を降りて坂道を歩いて行く。すぐに石畳の急斜面が見えた。ライは中世の町並みがそのまま残された村。石畳の小道が迷路のように続いていて、次はどんな景色が待っているのだろうと思うとどうしても早足になってしまう。
何百年もの前の人々が作り上げた石畳の道は、ヒール靴をはいてきてしまっていたら石と石の間にヒールがはさまって大変なことになってしまうぐらい、丸い石がそのままの姿で道の中に埋め込まれてある。急な石畳の坂道を登ると、「マーメイドストリート」と書かれた看板を見つけた。「人魚の道」、思わず吹き出してしまいそうなぐらいロマンチックなネーミングも、このライ村なら許してしまう。
ライ村は、1時間もあれば村全体を見て回ることができる。でももう少し、中世の世界を感じていたくて、村のはずれの方まで歩いて行くことにした。ブランコのある公園では、遠足で来た子供たちが元気に遊んでいた。小さな子供たちにとっては歴史ある中世の村の風景よりも、鬼ごっこやブランコの方が魅力的に見えるのかもしれない。子供たちが帰ったあとは、私もこっそりブランコに乗って遊んでみた。村に住むおじいさんがほほ笑みながら私に手を振ってくれたので、私も思わず手を振り返す。一瞬だけ、子供のころに戻れた気がして、たまらなくうれしくなった。
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| Brighton |
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イギリスの南、ブライトンに着いたのはもう日が沈むころだった。沈み行く太陽は空一面を赤く染め、空を映しだす海面も赤く輝いていた。砂浜では恋人たちが、その神秘的な美しさの前で頬を赤く染めていることだろう。赤い空の中で、小さな三日月がそのすべてのありさまを見守っていた。
ロンドンっ子の友人に「ブライトンには絶対に一度は訪れたほうが良い。」と私に言っていた意味がすぐにわかった。Brighton Pier の鮮やかなイルミネーションと電灯の灯りがより一層この町をロマンチックに演出していた。ロンドンにもロマンチックな場所はいくつもあるけれど、これらの灯りを遮る物のない、ブライトンの町だからこそ素直にその演出を受け入れることができる。
Brighton Pier で買ったソフトクリームを食べながら、そんなロマンチックな夜景を見ている。ブライトンの大人びた夜景の中で、子供のようにソフトクリームを食べる自分の姿を想像したら、なんだかおもしろくなった。ブライトンの夜景には、砂浜に座りながらワインを飲む方がしっくりくるのかもしれない。
日の光が完全に海の下に沈むころになると、海から吹く風は冷たさを増した。光り輝くBrighton Pier のイルミネーションを背に、深い深い夜が訪れる前に私たちはロンドンに向かった。 |
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| Leeds Castle |
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まるで湖に浮かんでいるかのように、優雅にたたずむこのお城は、いつしか人々に「貴婦人の城」と呼ばれるようになった。長年貴族たちに愛され続けたこのお城に、旅人たちが心惹かれないはずがない。リーズ城のまわりには、水鳥たちも美しさを競いながらキラキラと輝く湖の上をゆうゆうと泳いでいる。ロンドンで出合う水鳥たちよりも、リーズ城の湖にいる水鳥たちの方が貴高く見えるのは、やはり水鳥たちもこのお城の美しさを知っているから。
湖の向こうに見える丘には、羊たちがうらやましそうに水鳥たちをながめいるように見えた。何百年も前、貴族たちは私の見ているこの景色と同じ景色を見ていたのだろうか。水鳥たちがゆっくりと湖を泳ぐ姿、向こう側にいる羊たち、水面から空へと飛び立とうとする水鳥、ここではすべての出来事がゆっくりと過ぎていく。遠い昔の貴族たちになった気分で、私もただ何もせず、ゆっくりと流れるこの貴重な時間を楽しむことにした。
リーズ城の近くに、色とりどりの花に囲まれた小さな茶色い小屋があるのを見つけた。真っ白な洗濯物がいくつか干してあるから、きっと誰かがここに住んでいるのだろう。この小屋からは、湖に浮かぶリーズ城を独り占めできる。自分だけの隠れ家を見つけたような気がしてうれしくなった。湖のほとりで休むみんなには、この小屋のことは内緒にしておこう。
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Canterbery / Dover
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カンタベリーには、イギリスのキリスト教の総本山であるカンタベリー大聖堂がある。カンタベリー大聖堂は、601年にローマ法王の命を受けた聖アウグスティヌスによって創建され、いくつもの厳しい歴史の中を生き抜いてきた。ヘンリー8世による宗教改革はあまりにも有名だ。大聖堂へ続く門では、キリストの像が上から手を広げて出迎えているようだった。あまりにも厳かなその門をくぐると、繊細な大聖堂の建物が現れた。
「天国への門」と讃えられる大聖堂の中には、美しいステンドガラスがいくつも飾られ、内側に神秘的な輝きをもたらしていた。歴史の教科書をめくっていくように、カンタベリー大聖堂でイギリスの深い歴史に触れたあとは、イギリスの最南端であるドーヴァーへ向かった。ドーヴァーは、イギリスから最もフランスに近い町。お天気の良い日には、対岸に小さく浮かぶフランスが見える。
「ここ最近ずっと見えなかったのに、あなたは本当に運がいい。」ドライバーも目を細めながら満足気に海の向こうに見えるフランスを眺めていた。ここから見えるフランスは、いつもと違う表情を見せてくれる。手に届きそうで届かないような、そんなもどかしい存在に思えた。対岸からこちらをながめるフランスの人々も、そんな思いでこちらを見ているのだろうか。どこまでも続く真っ青な海に浮かぶフランスを見ていたら、普段は手紙なんてめったに書かないのに、パリにいる友人に久しぶりに手紙を書きたくなった。
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